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地震に強く、安全な家づくりを行う上で必須となる地盤調査。
災害時や台風の際、よく地面が液状化して住宅が倒壊してしまったといったニュースを目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
土地の状態や性質を確認する地盤調査は、建物を建てる際に必ず行う必要がある大切な調査ですが、その実態がいまいちピンと来ていないという方も多いのではないでしょうか。
ここでは、地盤調査についてその必要性から調査手法・費用に至るまでポイントごとに紹介します。
地盤調査とは
地盤調査とは、建物を建てる前にその地盤がどの程度の建物の重さに耐えられるかなど、地盤の状態を確認する調査のことを言います。もしその土地が軟弱な地盤であった場合、建物の重さに耐えられず地盤沈下を起こしたり、家が傾くなどの危険性が生じてしまいます。
地盤調査では地盤沈下の危険性を判断し、危険性がある場合は適切な対策を行うための端緒となっています。
地盤調査の目的
地盤調査では、対象となる土地がどのような地盤構成で作り上げられているのか(自然形成の土地なのか・人為的に作られた土地なのか)・強度の高低・土質はどのようなものか・地層はどのように形成されているのかなど様々な要素からチェックしていきます。
特に土質や地層は、地盤の強度や支持力・変形の有無・揺れやすさなどに影響してきますので見極めが非常に重要となっています。
その他にも、地下水位の高低によっては土質や土層と組み合わさることで「液状化現象」を引き起こすことにも繋がるため、この点もよく確認しておくことが必要です。
地盤調査の重要性
土地の状態や地下水位など家を支える基盤の調査をすることは、安全性や耐久性を確保するための重要な手段といえます。特に日本は地震大国と呼ばれるほど地震の多い国ですので、地震による被害や二次被害を最小限に留めるためにも軽視せずにしっかり行いましょう。
なお地盤調査は、甚大な被害を出した阪神・淡路大震災後の2000年(平成12年)に、建築基準法が改正され、現在では義務化されています。
地盤調査の種類
地盤調査には、スウェーデン式サウンディング試験・ボーリング試験・平板載荷試験の大きく3つの種類があります。設計者や工事施工者が建物や土地に合った調査方法を選定していきます。
各調査方法について次章で解説します。
地盤調査の方法
調査の方法によって、液状化判定の可否や調査可能な地盤・深度、調査にかかる費用・期間が変わってきます。このため各調査の特徴を把握しておく必要があります。地盤調査の方法は以下の3つです。
- ボーリング調査
- サウンディング試験
- 表面波探査
それぞれについて解説します。
1.ボーリング調査
ボーリング調査とは、最も基本的な調査で、地面に穴を掘りながら地盤の性質(強さ)を調べる方法を言います。ボーリング調査は小規模から大規模建築まで様々な現場に事前調査として採用されています。費用は、地層の種類にも左右されるため一概には言えませんが、一般的には20万円程度です。
具体的な調査方法は、一般的には1m掘り進む毎に標準貫入試験という地盤の強さを調べる試験を行います。調査ポイントにやぐらを組み、中空鋼管を掘削しながら沈めていきます。鋼管へ打撃を与えて地盤の抵抗値(N値)を図りながら、中空鋼管の中に土そのものを採取することができます。
この方法によって地耐力と土質を同時に調査することが可能となります。やぐらを組むスペースが現場に必要であったり、調査機械がスウェーデン式サウンディング試験に比べて大掛かりなため、費用がスウェーデン式サウンディング試験より高いといったデメリットはありますが、信頼性の高い調査方法です。
2.サウンディング試験
戸建ての建物など、調査に費用があまりかけられない建築物の地盤を対象とし、比較的小規模な建物の調査に用いられているのがスウェーデン式サウンディング試験です。略してSS試験やSWS試験といった呼び名があります。
具体的な試験方法は、地盤に鉄の棒を機械で回しながら差し込み、棒の沈み方のゆるさ・硬さで、地盤の強さを判定します。一般的には、敷地の4隅と中央1箇所の合計5箇所を調査します。
スウェーデン式サウンディング試験は、半日程度で作業を終えることが出来、費用も安価なため、多くの住宅地の調査に採用されています。
注意すべき点としては、地耐力は計測できますが、土質を調査することが出来ない点です。そのため、液状化判定を行う際はボーリング調査が必要となります。また、固い地盤(N値30以上の砂礫層など)であった場合や、大きな石などの障害物に当たった場合も掘り進むことができないため調査不可となります。
3.表面波探査
「表面波探査」とは、起振機から発生させた振動(「表面波」と言います)を、検出器A・B間に到達する速度を計測します。この表面波を計測・解析することで、深度15m程度までの地層の状態がわかります。アスファルトや砂利の地面のほか、地盤改良後の確認検査にも適している点が特徴です。
検出器A・B間に到達する速度が速い場合は、その土地は硬く良好な地盤といえ、到達速度が遅い場合は、 軟らかい軟弱な地盤といえます。
表面波探査では、地層毎の地盤の硬さや硬さのバランス・建物建築後に想定される沈下・1cm単位の地層の傾きや盛土厚がわかります。
地盤調査の結果の見方
地盤調査の結果は、調査報告書としてまとめられます。主に地形の区分や地盤沈下の兆候の有無等について調査・記載され、地盤改良の必要性の有無を判断していきます。
ただし、調査報告書は専門用語も多いため、ある程度の知識がなければ調査結果を正確に確認・判断することは難しいといえます。結果の中でも特に押さえておくべきポイントは以下の3つです。
- 地盤の強度と安定性
- 液状化リスクの評価
- 地盤改良の必要性
それぞれの見方を解説します。
1.地盤の強度と安定性
地盤の強度と安定性は地形の区分に影響されます。調査報告書には、自然の地形と人工の地形に分けて記載されていることがあります。自然の地形は大きく分けると、山地、丘陵地、台地、低地に分類されます。一方人工的な地形とは、盛土地や埋め立て地を指します。
地形は、地下の地盤の違いによって分けられているため、どんな地形の場所に家を建てるかを知ることで、あらかじめ建築予定の土地の地盤状況をある程度予測することができます。
低地の後背湿地や以前川が流れていた場所・谷底低地・人工の盛土地・埋立地などは軟弱な泥質の地盤が想定されるため、地盤沈下の面からも注意しましょう。
2.液状化リスクの評価
液状化のリスクについても、まず地形区分からある程度予想することができます。
例えば、自然堤防縁辺部・比高の小さい自然堤防・旧河道・堤間低地・埋立地など、通常時から砂と砂の隙間に水が含まれているような地形は液状化の可能性が高いといえます。
また評価方法として、液状化する地層が地表面から5m以内にある場合や、地下水位が地面から10m以内にある場合・ゆるい砂の地盤の場合は、液状化の危険性があると判定されます。
3.地盤改良の必要性
地盤調査報告書には、右側に「荷重Wsw」 「貫入量1mあたりの半回転数Nsw」という、グラフのようなものがあり、これは地盤の硬さを示しています。
左の「荷重」と右の「貫入量1mあたりの半回転数」の目盛りの間の線を境として、左側がおもりの重さだけで沈んだ「自沈層」で、左側に行くほど軽い重さ(低い荷重)で自沈した軟らかい地盤であることを表しています。一方で、境の線より右側が100キロで沈まずに回転して貫入した「回転層」で、右側に目盛りがいくほど硬い地盤となります。
これらを踏まえて、地盤改良の必要性があるケースとは、例えば、基礎の底面の深さから2m以上、5mまでの深度に0.5kN自沈(約50㎏)以下の荷重で自沈層がある場合は沈下の検討をする必要があるとされています。
地盤調査に基づく基礎設計
液状化現象の発生や圧密沈下(軟弱な粘性土層が盛土などの荷重を受けて、土と土の間の水が徐々に排水されて体積が減少すること)の可能性・支持力の強さを考慮することは、住宅の基礎設計を行う上で非常に重要です。
前述の通り、これらの項目は地盤調査で調査されるため、基礎設計は地盤調査の結果を元に行う必要があります。
直接基礎と杭基礎
建物を建てる際に、地盤が軟弱な場合には安全に建物の荷重を地盤に伝達するための基礎を設置します。上部構造から伝達される力が基礎構造へ伝わり、最終的に地盤まで伝達されるため、固い地盤で建物を支持する必要があるためです。
この基礎の形式には、大きく分けて「直接基礎」と「杭基礎」があります。 建物の規模にもよりますが、比較的地盤が良好な場合や軟弱地盤が薄い場合には直接基礎、軟弱地盤が厚く、良好な地盤が深い位置にある場合には杭基礎とするのが一般的です。
直接基礎とは、基礎スラブ(耐圧版)により直接地盤へ荷重を伝達して建物を支持する形式を言います。直接基礎の中でも基礎形式によって「独立基礎」「布基礎」「べた基礎」に分けられます。
杭基礎とは、杭を通じて地盤へ荷重を伝達して建物を支持する形式を指します。支持層までの深さが深い(支持層までの深さが10mを超えるくらいが目安)場合において、計画されます。
べた基礎と布基礎
前述の直接基礎からさらに基礎形式によってさらに細分化されたのが「べた基礎」 「布基礎」です。
「べた基礎」とは、建物全体の荷重を、鉄筋コンクリートで作った大きな「面」で支える構造の基礎のこと。べた基礎のメリットは、面で支えるため荷重を分散でき、不同沈下しづらく耐震性に優れている点・コンクリート基礎で覆うため、地面からの湿気を抑制しやすい・シロアリ被害を受けにくいといった点が挙げられます。現在、木造住宅に多く採用されています。
「布基礎」とは、建物全体の重みを「点」で支える構造の基礎のこと。立ち上がり部分以外は地面の上に防水シートを敷き、その上にコンクリートを設置します。鉄筋も入っておらずコンクリートも薄いため、クラック(ひび割れ)が発生するとそこから湿気が床下空間に入る可能性があるため要注意です。ただし、薄い分べた基礎と比べてコストを安く抑えることができるのがメリットです。
布基礎は、べた基礎に比べてコンクリート量が少なく軽いため、地盤への負荷が少ないのも特徴です。
基礎の強化と補強
地盤調査の結果と敷地周辺に関する情報を総合的にみて、基礎の強化と補強が必要かどうかを決めていきます。
地盤補強は、地盤そのものを固めてしまう地盤改良と既製の杭状の補強材を打ち込む工法とに大別できます。柔らかい地盤で建物を安全に支えるため、戸建住宅では広く採用されています。
具体的な地盤補強の工法としては、主に「①表層改良工法」「②柱状改良工法」「③小口径鋼管工法」「④既製コンクリートパイル工法」の4つがあります。次の章で詳しく解説します。
地盤改良の方法
各地盤改良方法のメリット・デメリットといった特徴について紹介します。建築予定の建物が、木造かコンクリート造なのかによっても変わってきますが、改良方法の判断は、地盤の状態に応じて決められます。
表層改良と深層改良
表層改良工事とは、表層地盤を1~2m程掘り起こしセメント系粉体固化剤を混ぜて強固な地盤にします。残土が多く出るのが特徴で、土質によっては撹拌が十分に出来ないと固化不良が起こる危険性があります。
深層改良とは、地上から深さ8mほどの柔らかい地層の上に建造物が建てられるように地中を強化する工事を言います。専用機械によって地面を掘削して、固化材であるセメントや水、穴を掘って出た土をかき混ぜながら杭を打設します。
地盤に合わせて強度が高められる一方で、一度、深層改良して杭を地中に打設すると元に戻せないため、土地を売却する際は不動産屋に深層改良した旨伝えておきましょう。
置換工法と柱状改良
置換工法とは、計画地の軟弱地盤の一部、または全体を良質材等に置き換えて地盤の強化を行う事で滑動やせん断・沈下・液状化に対して対策を施す工法です。この工法は軟弱な地盤が浅い範囲にある場合に有効です。ただし大量の良質材が必要となるため、あまり大きな建築物のための計画地には不向きといえます。
柱状改良工事とは、小・中規模建築物向けの地盤改良工法で、地盤に直径40〜60cmの穴を掘り、その中に固化剤を入れて柱状体をつくり土との摩擦抵抗で建物を支えます。
もっとも一般的な工法ではありますが、シンプルな工法であるがゆえに施工業者の経験値や技術の差が出やすく、沈下事故発生率が高い工法でもあります。
注入工法と締固め工法
注入工法とは、ひび割れに樹脂系あるいはセメント系の材料(ポキシ樹脂やアクリル樹脂などの有機系、ポリマーセメントモルタルなどの無機系)を注入して、防水性、耐久性を向上させるもので、仕上げ材がコンクリートの躯体から浮いている場合の補修にも採用されています。コンクリート構造物全般に発生したひび割れの補修工法として適用可能です。
注入方法により、自動式低速低圧注入工法・手動式樹脂注入工法・機械式樹脂注入工法の3工法に分類されています。
締固め工法とは、粘性土地盤の安定・沈下対策にも適用される工法で、ゆるい砂質土地盤を締固めて地盤の密度を増大することにより、支持力の増大・変形の抑制および液状化を目的とします。この工法は振動や騒音が発生しやすいため、施工中の振動・騒音および変位の影響について事前に十分に検討する必要があります。
地盤調査の費用と時期
最後に地盤調査の平均費用と調査を行う時期について解説します。
地盤調査の平均費用
まずスウェーデン式サウンディング試験は、平均5万円から10万円が相場となっています。非常に小さな面積で調査が行えることと、他の方法と比較してリーズナブルに行える点が特徴です。
スクリュードライバーサウンディング試験はスウェーデン式サウンディング試験と比べて土質の推定精度がさらに高い手法です。平均費用は8万円から15万円です。
ボーリング調査は平均15万円から30万円。地面に直径8cmほどの穴をあけ、鉄の筒状部品を挿入、一定の高さからハンマーを落下させ何度打撃を加えたかという計測方法であるため、他の調査に比べてコストがかかります。
表面波探査法の場合は、8万円から12万円が一般的です。
上記調査後、地盤に問題が見つかった場合には地盤改良工事を行う必要があります。その場合は調査費用とは別に50万円から200万円程度の追加費用がかかることもあるため、頭の片隅に入れておきましょう。
家を建てる際の地盤調査の位置づけ
地盤調査は一般的に土地を購入した場合や家を建築する際に行われます。例えどんなに耐久性や耐震性に優れた家を設計したとしても、基盤となる土地が弱ければあっという間に命の危険に繋がります。
ある程度住宅プランが固まったところで、必ず地盤調査を行うようにしましょう。
まとめ
新築・中古を問わず建物の購入を検討する際は、建築予定地の地形や地盤の強度等の確認は必須です。土台がしっかりしていなければ、どんなに上に良いものを建てようとすぐに壊れてしまう危険が常に付きまとうことになります。
予定している建物の構造や立地によって調査方法は変わってきますので、専門家と相談しながら地盤調査を行った上で、快適な家づくりを進めましょう。