INDEX
テレビやインターネット・看板といったメディアに掲載される家の宣伝において、「省エネ」や「冬も快適な家」「気密性の高い家」といったキャッチコピーを目にしたことはないでしょうか。
ただ、こういったコピーは実際に家に住み、比べて体感したり光熱費を比べてみないとなかなか実感しにくいものかもしれません。
「なんとなく良さそうな性能だけど、正直よくわかっていない…」そんな方のために、家の性能の中でも特に重要な、気密性・断熱性についてわかりやすく解説していきます。
住宅における気密と断熱の基本
住宅に関して調べていればよく聞く『気密性』『断熱性』について、その定義と重要性について説明します。
気密性とは
『気密性』とは、屋内と外部との空気の流れを妨げる性能のことをいいます。
つまり、簡単にいうと気密性が高いとは、スキマ風がない、または抑制された空間が保たれていることを意味します。やっと暖かい家に帰ってきたと思ったのに、冬場の冷たい風が隙間から入ってきたら悲しいですよね。快適に暮らすためにも、気密性を考慮することはとても重要です。
断熱性とは
『気密性』の他に、もう一つ重要な性能が『断熱性』です。
断熱とは、外部との熱の出入りを遮ること。
断熱性が高ければ、空気が出入りしにくくなるため、室内の温度が外気温に影響を受けず、快適な空間を保てるというメリットがあります。
例えば、積雪の多い地域のお家ではよく窓が二重サッシになっていることが多く、二重にすることで断熱性を高める工夫がされています。
一方、暑い季節にも断熱材は活躍しています。クーラーで快適な部屋がちょっとクーラーを止めただけで、外の気温の影響を受け、部屋中が暑くなる、ということを防ぐこともできます。
気密と断熱の重要性
このように気密も断熱も快適なお家ライフを過ごすためには欠かせない重要な役割を担っています。また、近年は入浴中の高齢の方に特に多いヒートショック(温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動することによって、失神したり心筋梗塞や脳卒中といった血管の病気などを引き起こす健康被害)も温度変化が原因となっているため、部屋の温度を快適な温度に保つことは、健康被害の予防にも繋がります。
家を建てる際には必ずチェックするようにしましょう。
気密性を向上する方法
では、この重要な気密性を高めるためにはどうしたらいいのか、方法や考え方をご紹介します。
家全体の気密性を確保するための設計
住宅での気密性とは、隙間風などが入らない状態のことを言い、気密性が高いほど、室温を維持しやすい環境を言います。
空気の流れを管理する必要があるため、天井や床・外壁から室内の構造・窓の位置や数など、多くの要素を網羅することで、気密性は担保されるといえるでしょう。
気密性が高いことで、建物の老朽化の抑制や保温効率をあげることができるため、家づくりで気密性は非常に重要です。
窓やドアの気密性向上テクニック
気密性を高める上で欠かせないのが、窓やドア。なぜなら、熱が室内から逃げるのも、室内に入ってくるのも、そのほとんどが開口部である窓やドアからだからです。つまり、高気密化を行う上で、効果的なのが、窓などの開口部の高気密化・高断熱化になります。
例えば、窓の気密性を高くするには、窓枠が樹脂製の樹脂製サッシを用いたり、開閉する際に隙間ができてしまう引違い窓や上げ下げ窓を少なくするなどの方法があります。
断熱材の種類と選び方
気密と並んでもう一つ重要なのが断熱。
ここでは断熱に欠かせない、断熱材の種類や選び方をご紹介いたします。
断熱性の高い家づくりの参考になれば幸いです。
一般的な断熱材の紹介
一口に断熱材といってもその種類は様々ですが、主に以下の4種類があります。
木質繊維系
1つ目はセルロースファイバーといった木質繊維系。吸放出性能で空気中の水分を調整してくれる特徴があり、湿気の多い時には水分を吸収し、乾燥している時には水分を放出してくれます。吸放湿性と防音性に優れた断熱材ですので、内部結露が心配な方や、家の中や外の音が気になる方、表面結露で壁にカビが生えてお困りの方などにおすすめです。
無機繊維系
2つ目は、グラスウール・ロックウールといった無機繊維系です。グラスウールとは、ガラスを高温で溶かしミクロン単位の細い繊維にして綿状にしたもので、断熱性・吸音性・防振性に優れています。ガラス繊維ですので、虫食いが起きたりしない点も特長です。
ロックウールとは、人造鉱物繊維と呼ばれるもので、玄武岩、鉄炉スラグなどに石灰などを混合し、高温で溶解し生成される素材です。ロックウールもグラスウールと同様に、無機物由来の素材のため、燃えにくく湿気に強いという性質があります。
特にグラスウールは、価格も安く、コストパフォーマンスの高い素材のため、リーズナブルに抑えたいという方におすすめな素材といえます。ただし、設置には高い施工技術が必要なため、選ぶ際は信頼できる施工業者を選ぶようにしましょう。
発泡スチロール系
3つ目は、フェノールフォーム・ポリスチレンフォームといった発泡スチロール系です。フェノールフォームとは、フェノール樹脂という特殊な樹脂に発泡剤や硬化剤などを混ぜて、板状に形作った素材を指します。フェノール樹脂は、フライパンの取手や電球のソケット部分などの日用品から、基盤などの機械部品として使用されるなど様々なところで活躍している素材です。断熱性・耐水性・耐熱性が優れており、簡単な作業で建物の気密性を高める高い施工性が特長です。その一方で、価格が高い点や、風雨や紫外線による劣化などの弱点もあります。
天然素材系
最後は、羊毛や炭化コルクといった天然素材系です。1本の繊維がくるくるとねじれてクリンプ状に絡まり合って、繊維が縮れていることにより多くの空気を含むことができ、高い断熱性や保温性を確保しています。羊毛だからこそ実現できる特徴といえます。高い断熱性や吸音性・耐水性のほか、高い調湿効果を期待できます。
調湿効果とは、空間が乾燥している間は適度な湿気を含み、湿度が高いと湿気を吐き出すことで、湿度を調整できる効果のことを言います。また、羊毛断熱は、接着剤や防腐剤などを一切使用していないため、ホルムアルデヒドなどの有害物質を発散させません。
炭化コルクとは、コルクを炭化させることで、コルクのもつ高い断熱力をさらに強化させた断熱材を言います。炭化コルクも羊毛と同様に、断熱、吸音、調湿に優れた性能を発揮します。また、消臭や、ぜんそくやアトピーの原因となるダニに対し、高い忌避効果を発揮する点が特徴です。天然素材系の断熱材は、身体に優しい家づくりをしたい方におすすめです。
高性能断熱材とその特徴
上述した断熱材ですが、最近ではさらに進化した高性能な製品も出てきています。
例えば『高性能ウレタンフォーム』は、グラスウールの約2倍の断熱性を実現し、かつ湿気に強く劣化しにくいという特徴を持っています。
またその他にも、発泡スチロール系の気泡構造をより微細にし、断熱性を高めた断熱材や、最新の細繊維化技術によって、一般的なグラスウールと比べて細いガラス繊維を高い密度で絡み合わせて高い断熱性能を実現した、高性能グラスウールがあります。
少し前にホルムアルデヒドなど発がん性物質が問題となっていましたが、技術が進み、ノン・ホルムアルデヒドで発がん性のリスクも認められない断熱材も出てきています。優れた断熱性は、冷暖房のエネルギーを無駄にせず、快適性や省エネに繋がるため、エコ住宅を検討されている方にもおすすめです。
地域の気候に合わせた断熱材の選び方
日本は地域によって気候が違うため、求められる断熱性も地域ごとに異なっています。経済産業省資源エネルギー庁が出している新省エネ基準では、日本の地域を8つのエリアに分け、必要な断熱性能をエリアごとに定めています。北海道などの寒い地域では熱抵抗値は高く、九州など暖かい地域では熱抵抗値は低くなっています。
熱抵抗値とは、熱の伝わりにくさを表すもので、数値が大きければ大きいほど断熱性能が高くなっています。
断熱材を選ぶ際は。ご自身のお住まいの地域に必要な断熱性能を事前に確認することが必要です。
気密・断熱技術の最新トレンド
近年、断熱材の性能に関する研究が進み、多くの新しい技術が開発されています。 例えば、炭素ナノチューブなどの新しい素材を使用することで、従来の断熱材よりも高い熱抵抗性を持つ断熱材が登場しています。また、先日京都大学の研究グループがガラスにほぼ匹敵する透明さがあり、しかもよく曲げられるエアロゲル(低密度多孔体)を開発したとのニュースがあり、次世代断熱材として期待されています。
気密・断熱を考える際の注意点
高めればメリットがたくさんある「気密性」「断熱性」ですが、同時に気を付けなければいけない点もいくつか存在しているため、いくつかご紹介します。
過剰な気密性が引き起こす問題
まず1つめは、空気がこもりやすいため、ハウスダスト対策が必要な点が挙げられます。隙間が少ないため、計画的に換気をしないと空気の出入りが最小限となり、ハウスダストなどが家の中に溜まってしまう原因になってしまいます。健康被害を防ぐためにも、24時間換気システムを止めず、常に家全体の空気を入れかえることなどが必要です。
2つめは、壁や床、天井の内側で結露が発生する可能性がある点です。内部結露とは、壁の中にある断熱材の内部に室内から湿度の高い空気が侵入し、冷たい外気との温度差で結露してしまう現象を言い、この内部結露が生じるとカビなどが発生する原因になり得ます。ただし、現在は施工技術で対策することも可能ですので、未然に防げるようしっかり対策をしていきましょう。
断熱材の過不足のリスク
断熱材は多すぎても少なすぎてもリスクが生じます。例えば、断熱材が不足している場合、特に冬場は、床下の断熱材の隙間から冷気が侵入し、その後、暖房や調理によって、湿気の多い温かい空気が壁や屋根を通り抜けます。
その際、寒い外との気温差で壁や屋根の表面で結露することで、カビや汚れが発生する原因になっています。また、この現象は室内でも同様に起こるもので、冷気が室内に入り、結露を起こし、壁などにカビが発生してしまいます。湿気によりゴミが溜まりやすくなるので、家全体が汚れてしまうことに繋がります。
また、これらを放置しておくと結果的に、室内の汚染された空気を吸うことで、様々な体調不良を引き起こすシックハウス症候群になってしまう可能性もあるため、断熱材の不足は非常にリスクが高いといえます。
断熱材が過剰な場合、前述した過剰な気密性の問題と同様に、においがこもる・ハウスダスト対策が必要といった換気の問題や設置時のコストの高さの問題が生じます。
長期計画の重要性
断熱材も一度設置したら永久的に機能するものではなく、もちろん年を経過するごとに、劣化してしまいます。素材により耐久性が異なりますが、断熱材は経年劣化により30~40年ほどで性能低下が見られます。そして、断熱材の劣化は『湿気によるカビ発生』が最も大きい原因の一つと言われています。マイホームの性能を何十年も維持していくためには、素材や求める性能はもちろん、劣化させないための設置方法や過不足のない適切な施工となるのか、長い目でみて計画を立てていくことが重要です。性能がいいからといって早急に決めず、将来を見据えて検討する必要があります。
まとめ
住宅にとって、非常に重要な気密性と断熱性。マイホームを計画する上で欠かせない要素であることをご紹介してきました。
価格や性能だけを見るのではなく、どのような住まいにしたいのか、長く快適に住める家にするにはどうすればいいのか、しっかり計画して素敵な住宅にしていきましょう。